岡本綺堂妖術伝奇集―伝奇ノ匣〈2〉 (学研M文庫)



岡本綺堂妖術伝奇集―伝奇ノ匣〈2〉 (学研M文庫)
岡本綺堂妖術伝奇集―伝奇ノ匣〈2〉 (学研M文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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名作「玉藻の前」

岡本綺堂の伝奇集。長編2作に訳出長編1作、戯曲に短編に随筆と盛りだくさんの内容。中でもその半分を占める長編が素晴らしい。姫路城の天守閣に棲むという妖女の有名な伝説を綺堂流に著した「小坂部姫」もさることながら、大正七年(1916年)に婦人公論に連載された「玉藻の前」の素晴らしさには感動してしまいました。これ程の美しい文章は類を見ないと言っても過言では無い程。そして那須高原に今も残る殺生石で有名な玉藻伝説を綺堂流に悲恋物語として著したこの作品はあまりにも切なく、美しい名文が相伴って涙を誘います。果たして妖狐に魅入られた少女・藻(みくず)は完全に消失してしまったのでしょうか。ひょっとしたら思念だけが妖狐・玉藻に残っていたのかもしれません。しかしかつての幼馴染の千枝松を「千枝まよ」と呼ぶ玉藻には妖かしの者に身体を乗っ取られながらもかつての藻(みくず)が表出した感もし、「藻よ。玉藻よ」とかつての少女を呼ぶとも今の妖女を呼ぶとも定かでない千枝松の悲痛な叫び。綺堂が多くを語らない分、読む者の勝手な連想を起こさせるのもこの作品の凄さではないでしょうか。
まさに匣と言える、豪華な内容

 タイトルの通り、かなり豪華な本です。どこが豪華かと言えば、まず長編が二本、綺堂本人が翻訳を手掛けたゴシックロマンスの様な小説が一本、戯曲が四本、短編小説が三本、さらに随筆と解説がついて、本当にこれでもかと言うぐらいに完成度の高い作品が収められています。それも文庫サイズなのですから、我々読書家にとっては(値段や本の異常な分厚さはさておき)捨ててはおけない一冊なはずです。
 内容もまた素晴らしい。最近の怪談話やホラー小説はどうしても奇怪な出来事の数々が自分とはほとんど無縁な世界で繰り広げられるのに対して、この中に納められた作品はもっと親近感を与えるような感じです(時代背景、というもともあるのでしょうが)。妖魔に恋する人間あり、みずから邪の道に入る美女あり、夢と現実との境目を見いだせなくなる人物あり、怨霊と通じて仇を討つ女あり、狼にとりつかれて人を食らう女あり……と実に多彩。恐ろしくもあり、哀切でもあり、妖艶でもある世界観に引き込まれること請け合いです。
 是非読んでみてください。きっと、私達の生活とは違う軸で展開する物語に驚かれるはずです。
綺堂の怪談はなぜ怖いか

本邦怪談の屈指の傑作として幸田露伴の『幻談』がありますが、これがなぜ怖いかというと怪異をまったく説明しないからであります。夏目漱石『夢十夜』やその流れを汲む内田百閧ェ不気味なのも同じ理由からですね。

同じことが岡本綺堂の怪談『青蛙堂鬼談』にも言えます。特に「木曾の旅人」が好きだったのですが、本書を見ると、この話にはモデルがあるということが巻末資料でわかりました。そうとわかっても、やっぱり怖い。筆の運びといい、けだし名人芸です。



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